「男・椎名、父親・椎名」 椎名誠/続 岳物語

 世の中には、「男だからこそわかる」という文学作品が存在する(と私は思う)。
 例えば、東野圭吾の『秘密』がそうだ。主人公の苦悩や嫉妬、悲しみといったものは、きっと女性の読者には完全には理解できない世界だと思う。だから、『秘密』を読みながら流す涙の意味も、男の読者と女の読者とでは微妙に(あるいは、全く)違っているのだろうと思う。

 男だからこそわかる文学作品…。
 そういう作品を書く作家の代表格として、私の頭の中に真っ先に浮かぶのが椎名誠である。私は、彼の青春3部作(『哀愁の町に霧が降るのだ』『新橋烏森口青春編』『銀座のカラス』)やエッセイが大好きなのだが、椎名誠の描く「男の意地」や「男ならではのシャイな恋心」、それに彼の作中に度々出てくる喧嘩の話などは、「きっと女の人には分からないだろうなあ」なんて(彼の作品を読む度にいつも)思ってしまう(^^;)。

 彼の作品には、彼の男としての正直さが滲み出てしまっているのだと思う。だから、椎名誠の作品は、あんなにも男臭くて、優しくて、温かいのだ。
 それは、この『続 岳物語』にも当てはまる。前作『岳物語』の時よりも成長した息子の「岳」とのやりとりが楽しく、そして深い。文章から滲み出る「男としてのカッコよさとカッコ悪さ」「父親としてのカッコよさとカッコ悪さ」に、男なら誰でも「にやり」としてしまうに違いない(^^;)。
 あまりに私的な作品のために、学校の先生や(岳君の入っていた)少年サッカーチームへの直接的な批判もあり、そういったところは少々好き嫌いの分かれるところかも知れないが、読み終わって心が温かくなる作品であるということは間違いない(と思う)(^^)。
 特に、千葉県の千葉市(椎名誠の出身地)や木更津近辺に住んでいる人間には、身近な土地が話の中に出てきて、それがまた楽しい(亀山の方は、複雑な思いになるかもしれませんが…。椎名誠や息子の岳君、それに椎名誠の友人の野田さん(←昔、愛犬「ガク」と一緒に亀山に住んでいた)達が亀山湖というダムでカヌーをしたり釣りをしたりという話がよく作中に出てくるのだが、どうやら地元の人とあまりうまくいかなかったらしく、椎名誠は別の作品で亀山の人たちをあまりいいようには書いていないのである…)。

 千葉に住んでいる人もそうでない人も、椎名誠に興味のある方は是非一度読んでみてください。彼の人となりがとってもよく分かる一冊です(^^)。

<BOOK>
椎名誠 『続 岳物語』  集英社(1986)
※画像は、文庫版。
画像
 

この記事へのコメント

2006年05月05日 10:50
初めまして。
最近、懐かしのミュージシャンの曲が流れること多いですね~ディープパープル、CCR,シカゴ、ニルソン、ロッド・スチュアート、サンタナ等など(この頃青春時代)
私も”岳物語”読みました。ホノボノ作品ですね。
波野井露楠
2006年05月05日 18:09
komaさん。
はじめまして。
コメントありがとうございます!!
懐かしの音楽がTVやラジオで流れてくれるのは、私としてはとてもうれしいです(^^)。
やっぱり名曲多いですからねえ(^^)。
椎名誠は、私小説がみんなホノボノしていて大好きです(^^)。
まゆぼん
2006年05月05日 22:52
波野井さん、こんばんは。
私はそこまで椎名作品を読んでないんですよ・・。
ではなぜ『岳物語』を読んだか。
それは「教科書に抜粋されていたから」です(笑)
それがすごく面白くて、全体を読んで見たくなったんですよ~。『新橋烏森口青春編』も好きです。私は一応女の読者ですので、「男の人ってこうなんだ~」っていう視点で読んでますかね・・。
東野圭吾さんの『秘密』って、映画化されましたよね?同じく映画化されて「体が入れ替わる」という設定も同じ作品で、浅倉卓弥さんの『4日間の奇跡』ってご存知ですか?ファンタジックなんですが、女の人が同じモチーフで書くともっと甘~くなるんだろうな・・、と思ったのですが、果してこの作品を男性が読んだらどう思うんだろう?なんて思ったりして・・。
東野圭吾さんは読んでみたいと思ってたので、まず『秘密』を読んでみようと思います♪
波野井露楠
2006年05月05日 23:56
まゆぼんさん。
こんばんは。コメントありがとうございます。
『4日間の奇跡』、映画は見てないですが、小説は読みました。ラストが、まゆぼんさんのおっしゃる通りファンタジックで、「似てるけど、そこが『秘密』とは違うなあ」なんて、読み終わった時思いました(^^)。
『秘密』は、もーっとシビアなんですよ(汗)。
読み終わって、1週間くらいボーっとしていた程です8^^;)。
2006年05月06日 01:37
波野井露楠さん、はじめまして。
当方にコメント&トラバありがとうございます。
「岳物語(正・続)」は私も大好きな作品の一つです。
椎名氏が文を書いて、佐藤秀明氏が写真を担当した「少年の夏」という本も、岳少年を題材にした本で、「岳物語」の副読本としてみても面白いと思います。
椎名氏の最近作を読むと大人になった岳君も時々登場しますが、父と子の濃密な時間という観点から見れば、この「岳物語」が秀逸ではないかと思います。
2006年05月06日 07:34
TBありがとうございます。
椎名誠氏の話、女性でもわかるでしょうが、やっぱり彼の行動は男にしかわからない世界もありますよね。

岳君も今じゃ完全にひとり立ち。濃密な係わり合いではないが、濃厚な親子関係が見られて良いですね。べったりとしてないが、きちんと相手を認め合う親子。そんな親子関係を作りたいと思ったりしますね。
バイオ・ラボ
2006年05月06日 17:44
TBありがとうございました。
私が椎名氏の文章に初めて触れたのは小学生4年の時でして、当時は深く考えずにただ面白いという理由読んでいました。

「岳物語」を読んでいる時は、岳と年が近い、ということもあり常に岳の動向を気にして読んでいましたね。
大量の餃子を平らげた岳に、
「岳すげ~」
って思ったりw

あれから10数年経ったわけですが、また読み返してみると新しい発見ができるかもしれませんね。
波野井露楠
2006年05月06日 18:45
七代目孫左衛門さま。
コメントありがとうございます。
「少年の夏」、実は立ち読みはしたのですが、持っていません(^^;)。今度、手に入れて、じっくり読み直してみます(^^)!!
波野井露楠
2006年05月06日 18:47
クルトンパパさま。
「べったりとしてないが、きちんと相手を認め合う親子」!本当にそういう親子なら最高ですね(^^)!!
椎名誠には、多くのことを学ばされます(^^)。
コメントありがとうございました!
波野井露楠
2006年05月06日 18:48
バイオ・ラボさま。
確かに、父椎名誠も凄いですが、息子岳も負けないくらい凄いですね(^^)!!
子は親の鏡!
まさにそのお手本の親子ですね(^^)!!
コメントありがとうございました!
2006年05月08日 01:43
TBありがとうございます。
自分の子供が岳と同じ年頃だったので、続・・とともに、とても興味深く読めました。今、このお子様は、どのようになっているのだろうとそれも、興味津々です。
こんな子育てもあるんだなぁと思いつつ、なかなかできるものではないですよね。
yukihi69
2006年05月08日 07:50
オハヨウございます。
椎名誠氏でTBありがとうございます!

僕の文章は基本的に椎名さんの影響大ってのは
よくわかると思いますが、
ものすごく大ファンであります。

岳くんも、もう立派なお年になったことでしょうね。
岳くんの文章も読んでみたいですが、
やはり親父の(もち良い意味で)
昭和軽薄文体を引き継いでくれるのでしょうか?

逆にすんごくインテリジェンスな文章だったりして。
波野井露楠
2006年05月10日 00:22
ma-to-mamさん。
コメントありがとうございます。
確かに、普通の親子では、簡単にああはいきませんね(^^;)。
だからこそ、多くの人たちに羨ましがられ、共感されるのでしょうね(^^)。
波野井露楠
2006年05月10日 00:24
yukihi69さん。
こんばんは。
やっぱり、椎名誠好きだったんですねえ(^^)。そうかなあって思ってたんですよ(^^)!!
益々親しみを感じてしまいます(^^)!

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