「数字と人の心が愛おしく美しく思えてくる話」 小川洋子/博士の愛した数式

 これは数年前、5年生を教えていた時、クラスのある女の子が教室で読んでいた本。
 先日、近所のブック・オフでこの本を見つけ、その時の女の子のことを懐かしく思いながら、「あの子はどんな本を読んでいたのかな?」なんて思い、購入した(^^)。
 映画化され、かなり売れた本であるということは知っていたのだが、映画の詳しい内容も知らなかったし、原作も読んだことがなかったので、「いつかは読んでみたい」と思っていたので、ちょうどよいタイミングだったのである(^^)。

 読み終わった後に、職場の先輩から聞いたところによると、「映画の方は原作と様々な点でかなり違う点があり、好き嫌いが分かれるだろう」ということであったが、小説の方は私が読んだ限りでは、「この本は本当によい本だなあ(><)!」と断言できる!

 題名に「博士」とか「数式」とかといった言葉が出てくるので、「理数系のちょっとややこしい話かな?」「読みながら疲れてしまうかな?」なんて思っていたが、そんなことは取り越し苦労だった(^^;)。
 もちろん、数字や数式の話もたくさん出てくるのだが、それらを記述している箇所は、理数的というよりもむしろ文学的であり、温かさや優しさが溢れているのだ。

 「数字ってこんなにも温かいものなのか!?」という読後の新たな発見に驚かされる。
 数学が苦手な私でも、数字が愛おしく思えてくるのだから、どれほど素敵な話なのかを推測していただきたい(^^;)。


 文庫本の裏表紙には、以下のような説明がある。
「〔ぼくの記憶は80分しかもたない〕博士の背広の袖には、そう書かれた古いメモが留められていた-記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりにも悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。」

 「あまりにも悲しく…」というところは、私にとっては「?」であるが、簡単に紹介すると、そういう話である。

 交通事故によって記憶に障害を持ってしまった元数学博士と、博士に無償の愛とも言える感情で接するお手伝いさんの私。そして、博士が唯一本当に心を許せるお手伝いさんの息子のルート(この呼び名の名付け親は、博士)。心の美しい3人が繰り広げる、清らかでこの上なく温かいストーリー!
 話は、阪神タイガースや江夏豊にまで及び、それがまた物語を一層味わい深いものにしている。

 …例えば、「28」という数字。
 主人公の私は、博士に教えてもらった友愛数(互いの約数を足すと相手の数字になる、ふた組の数字のこと。この物語では、私の誕生日の2/20=220と博士の腕時計に刻印されたナンバー284が友愛数であり、このストーリーにおける非常に大切なキーポイントの一つとなっている)を自分でも探してみようと奮闘しているうちに「28の約数を足すと28になる(28=1+2+4+7+14)」ということを発見する。
 博士は、それを「(約数を足すとその数字になるのは、とっても珍しく貴重な)完全数だ」と教えてくれる。
 そして、その「28」は阪神時代の江夏の背番号でもあって…。
 そこから、記憶が80分しかもたないために永遠に「江夏は阪神タイガースの投手」だと思い続けている博士と、そんな博士を傷つけまいとする私と息子のルートの心温まるストーリーが展開していくのである。

 また、作者の小川洋子の文章力も素晴らしい!
 上記の「完全数」のくだりには、次のような記述がある。
(公園のベンチの下の地面に小枝で)「博士は腕を一杯にのばし、長い足算を書いた。それは単純で規則正しい行列だった。どこにも無駄がなく、研ぎ澄まされ、痺れるような緊張感に満たされていた。
 アルティン予想の難解な数式と、28の約数からなる足算は、反目することなく一つに溶け合い、私たちを取り囲んでいた。数字の一つ一つがレースの編目となり、それらが組み合わさって精巧な模様を作り出していた。不用意に足を動かし数字を一つでも消してしまうのがもったいなくて、じっと息をひそめていた。
 今、私たちの足元にだけ、宇宙の秘密が透けて浮かび上がっているかのようだった。」

 なんという愛情に溢れた表現だろうか!
 数字と人の心が無性に愛おしく美しく思えてくるこの物語。ひとえに作者の心の温かさと並大抵ではない文章力の成せる業!そう思わずにはいられない…この『博士の愛した数式』は珠玉の名作である。
 
<BOOK>
小川洋子『博士の愛した数式』 新潮文庫(2005) 
※初出は、2003年新潮社より。
画像


 

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

2008年10月06日 21:47
この本が話題になっていた時は、似たような話が流行っていましたよね。
これも流行に乗った感動押し付け話かと思って、読んでいませんでした。
良かったですかぁ。読んでみようかな。
でも数式が出て来るんですか・・・
2008年10月07日 12:59
こんにちは。
私は先に映画を観てから原作を読んだくちなんですが、原作には更に感動しました。
小川洋子さんの文章力はホント素晴らしいですよね。
引き込まれるように一気に読破してしまいました。
しょーじ
2008年10月07日 13:42
僕も大学2年生のときに読みました!本当に読みやすくて名作ですよね!
実はS藤先生の授業で、自分の好きな本の一部を暗記して発表するという課題があったのですが、僕はこの本の、正に完全数のくだりを発表したのです!!
あまりにも偶然過ぎてコメントしてしまいました!(笑)
2008年10月07日 15:08
この本、数年前に、ある書評誌で絶賛されてて、すぐに読みました。
ほとんど一気読み、感動しましたね~。
映画の方は見てないので今度見てみようかな~。
2008年10月08日 01:29
こんばんは♪小川洋子さんの文章、私も大好きです。
小川さんにしか綴れない言葉、小川さんのところだけに流れ星のように落ちてくる世界。それを読ませてもらう時間は、私にとって至福のひと時です。この物語がお好きなら「ミーナの行進」をお読みになってみてください。気に入られるはずです。
2008年10月10日 23:41
ご無沙汰して申し訳ありません。
この本、数年前に友人が貸してくれたので読みましたよ。
小川洋子さんの本って、独特の世界観があって、現実味があるような、でも絶対あり得ないような・・。
必要な事はしっかり描かれているけど、でも余計なものはあえて描いてないというか・・。
「あまりにも悲しく」は私にはなんとなくですが分かる気がしました。実際、本を読みながら涙が出ましたもの。(今手元に本がないので、正確に「この分部で」とは言えないのですが・・)
映画も見ましたが、う~ん、小川洋子さんの文体からかもし出される独特の部分は表現できてなかった気がします。映像はきれいだったし、寺尾明さんの演技は印象的でしたが。
波野井さんの記事を読んで、もう1度読みたくなってきました。
2008年10月11日 11:39
lemonedさん!
おはようございます!
同じような話が流行っていたんですか!
調査不足でした(^^;)。
ところで、この話ですが、数式とか出てきますが、その辺りはさらりと読み進めちゃえばいいだけですから、全く問題なしですよ~(^^)。
是非、読んでみてほしい1冊です(^^)。
2008年10月11日 11:42
mintslifeさん!
おはようございます!
mintslifeさんは映画を先にご覧になったんですね。映画の方はいかがでしたか?
今度レンタルしてみようかなあ。ケーブルTVでやらないかなあ(^^;)。
それにしても、小説の方は名作ですよね!女性だけでなく男も引き込まれる文章力。脱帽です!
2008年10月13日 01:12
しょーじ君!
こんばんは!
すごい偶然ですねえ(^^)!
場面まで一緒とは!!
なんか、とってもうれしい偶然です(^^)!
ところで、昨日、大学に行ってきました。S先生とT先生の静かな(いや、激しかったかな?冷や汗)バトルも見られ、両先生とも両先生らしく(^^;)、それがまた私はうれしかったです(^^;)。
国語は奥が深い!(しみじみ)
コメント、ありがとね(>v<)!!
2008年10月13日 01:13
土佐のオヤジさん!
こんばんは!
映画、原作と切り離して見れば、とってもいい映画みたいですね(^^)。
私も、いつかは見てみたいです(^^;)。
それにしても、原作の感動と言ったら、最高ですよね~(^^)!!
2008年10月13日 01:16
ERIさん!
こんばんは!
遊びに来てくださって、ありがとうございます!
しかも、最高の情報をお土産に(>v<)!
「ミーナの行進」ですね!
絶対読みます!!
小川洋子さんの作品はこれしか知らず(^^;)、書店で他の作品のさわりを読んだり書評を見たりしても、2冊目をどれにしたらよいかが分からなくて困っていたんです(^^;)。
本当にありがとうございます!!
2008年10月13日 07:24
まゆぼんさん!
おはようございます!
小川洋子さんの本はこれしか読んでないので偉そうなことは言えない私です(^^;)。
でも、彼女の世界観というのはすごく分かる気がします!
「あまりにも悲しく」…やはり、分かる人には分かるのですね(^^)。私には、悲しい部分も含めて全て美しく感じてしまって、悲しい部分が飛んでいってしまったようです。単純すぎますね(^^;)。。。

この記事へのトラックバック

  • 博士の愛した数式 小川洋子 新潮社

    Excerpt: もう私が何か言わなくても十分に有名な小説なんですが、やはり好きなんで。 今週、私はけっこう新しい本を読んだのですよ。でも、数を読んでも、だめなものはだめなんですよね。あきません。私はここでは好きな.. Weblog: おいしい本箱Diary racked: 2008-10-08 01:25
  • 『博士の愛した数式』

    Excerpt: 『博士の愛した数式』の映画を少しだけ見たことはあった。少しだけというのは、チャンネルを変えたらたまたまやっていたのを途中から見たからだ。ただ、それでも、十分に面白いと思える作品だったので、原作を読んで.. Weblog: Pesciのブログ racked: 2008-12-23 18:32